SES従事者の残業や休日出勤はアリ?ナシ? 仕組みを知って安心して働こう!

SESエンジニアとしてしばらく働き、残業について気になり始めた人も多いはずです。「残業が多い気がする。でも周りもこんなものなのだろうか」などと思っていらっしゃるのではないでしょうか。

SESは本来、残業が少ないものです。しかし、さまざまな要因により、望まない残業に苦労しているSESエンジニアがいることも否定できません。

そこで今回はSESエンジニアの残業が多くなってしまう原因を紹介します。残業を依頼された場合の対処法や指示を拒否できるケース、本来は残業が少ない理由なども解説するので参考にしてください。

SESで残業ってアリ?ナシ?

まずは、そもそもSESは契約上、残業をして良いか、実際の残業事情はどうなっているかといったことを解説します。以下を読んで、自社がブラックなSES企業だと思われる場合は、好条件のSES企業へ転職することをぜひご検討ください。

SESも残業できるが契約形態を考えると少ないのが普通

前提として、SESも必要に応じて残業や休日出勤をすることは可能です。追加で働く分の給与をきちんともらえば、残業することに何ら問題はありません。

しかし、そもそもSESと客先の契約は、準委任契約となっています。準委任契約とは、「月に140〜180時間、弊社のエンジニア(の労働力)を提供します」といった時間ベースの契約です。納品ベースの契約ではないため、プロジェクトの進捗や納期にかかわらず、時間が来たら帰っていいのが本来のSES社員だといえます。

またSES社員が従事する仕事は、システムの運用・保守をはじめとするルーティンワークが多いため、業務の性質上、残業が出にくいという事情もあります。以上より、標準的なSESに残業はほとんどありません。残業が少なく、ほぼ定時で帰れることがSES­の魅力です。

もしSES企業に勤めているにもかかわらず、長時間の残業が常態化しているなら、ブラック企業であることが疑われます。「偽装請負」をはじめ、法的な問題がはらんでいる恐れもあり、残業の少ない好条件のSES企業へ転職することを検討すべきです。

実際に平均の残業時間は少ない

厚生労働省の統計調査(2020年度)によると、情報通信業全体の平均残業時間は月に14.8時間とそれほど多くありません。その他民間のアンケート調査でも、SESを含めたITエンジニアの残業時間は、一般的に月20時間以内とされることが多いです。

そのため、少なくとも統計上は、SESエンジニアの残業時間は少ないといえます。しかし、後述する「みなし残業」や「サービス残業」といった要素もあるため、現実の残業時間はもっと多いかもしれません

違法な「みなし残業代制度」を設けるSES企業もある

SESでは、「みなし残業代制度」に基づいて残業代が支払われることが多くあります。みなし残業代制度とは、毎月の残業時間を一定に見積り、固定の残業代を支給する仕組みです。つまり月の残業時間が多かろうと少なかろうと、基本的に残業代は変わりません。

注意しなければならない点は、みなし残業代を超える残業が行われた場合、企業には超過分の残業代を支払う義務があることです。みなし残業代制度は、あくまで各企業が任意に設ける制度であり、超過分の支払いが免除されるような性質はありません。

ところが「みなし残業だからいくら残業しても賃金は変わらない」と間違った認識を持っている会社も労働者も存在します。またみなし残業代を超過しないように、社員が残業時間を過小申告する風潮のあるブラック企業も一部にはあるようです。

現場に気を遣った「サービス残業」も実際にはある

SES社員は契約上、納期や成果物の完成が責任範囲に含まれないため、現場がどれだけ忙しくても、定時になれば帰る権利があります。しかし、客先のエンジニアが残業して忙しなく働いているのを見ると、定時で帰るのが申し訳なくなることもあるでしょう。

実際、現場の監督者からは「帰っていい」と言われているにもかかわらず、つい残業してしまうSES社員もいます。そのほか、持ち帰って仕事をしたり、始業前に出社して時間外労働をしたりする人も多いです。しかし、現場が残業を命じているわけでないため、これらは全て賃金の出ないサービス残業となってしまいます。

自分を守るためには、サービス残業をしないことが肝心です。残業しないことで職場のプロパー社員から煙たがられるようなら、監督者や自社に相談して、自分の立場や責任範囲を正しく周知してもらいましょう。

管理体制が不十分で長時間労働が見過ごされてしまう

SESエンジニアのサービス残業が横行してしまうのは、本人の問題もありますが、現場の監督者や所属企業にも大きな責任があります。

第一に監督者が正しく勤怠管理を行い、時間が来たらSESエンジニアを帰すようにすれば、サービス残業は起こりようがありません。しかし、実際は監督者が常に現場にいるとは限らず、適切な管理がなされないケースもあります

またSES企業は社員の勤怠を逐一管理するのではなく、月末に勤怠表を受け取って確認するというパターンが多いです。そのため、自分から報告しない限り、基本的に自社の担当者はリアルタイムの勤怠状況を把握できません。

よって、サービス残業や長時間の残業で困っている場合は、まず自社の担当者に連絡しましょう。SESエンジニアへの指揮命令権を持つのは所属企業なので、自社に対応してもらうのが適切です。

契約時間の上限まで残業させようとする会社がある

SESの契約では、月間の稼働時間に「140時間〜180時間」といった精算幅があります。この精算幅に労働時間がとどまっていれば、所定の単価が支払われるという仕組みです。精算幅を超過した場合は超過精算、下回った場合は控除精算がそれぞれ行われます。

要するに客先にとっては、SESエンジニアを140時間働かせても180時間働かせても、支払うお金は変わらないということです。「だったら180時間目一杯働いてもらおう」ということで、残業が多くなるケースも見られます

また稼働時間が精算幅を下回りそうな場合、単価を下げないために「精算幅を超えるまで働いてこい」と所属企業から言われるケースも一部ではあるようです。

SES従事者が残業を依頼されたとき、気をつけることは?

SESエンジニアが現場で残業をお願いされた場合、契約上、注意しなければならないことがいくつかあります。以下の内容を参考に、正しい対処をイメージしてみてください。

まずは自社に依頼があった旨を相談する

SESエンジニアへの指揮命令権を持つのは、現場ではなくSES企業です。そのため、残業を依頼された場合、まずは自社にその旨を報告し、判断を仰ぎましょう。

自社に「残業してください」と言われれば基本的にしなければなりませんが、「帰っていい」と言われたら、現場の意向によらず退勤して問題ありません

現場が残業を命じるのは「偽装請負」として違法になる

SESは派遣とは違い、現場にエンジニアへの指揮命令権はありません。残業の指示を含め、あらゆる業務命令をすることは、「偽装請負」として違法であり、罰則の対象となります

そのため、客先からの「残業してください」という指示に従う必要はありません。必ず自社に確認し、自社から命令を受けたら残業するという形を取りましょう

残業の指示を拒否することもできる

自社に確認したら「残業しろ」と言われたものの、都合によりどうしても残業できないこともあるでしょう。「残業が少ないと聞いたからSESに入ったのに、話が違う」と思われるかもしれません。実は、特定の場合には残業命令を拒否することも可能です。

具体的には、以下のいずれかに該当すれば、残業を断ることができます

<残業を拒否できるケース>

  • 残業に業務上の必要性がない
  • 残業が健康を害する、もしくは健康に配慮しない内容である
  • 労働者が妊産婦である
  • 労働者が3歳未満の子供の養育者である
  • 小学生未満の子供がおり、すでに月に24時間以上残業している

上記の状況なのにもかかわらず、企業が労働者に残業を強制した場合、労働基準法上、違法になります。

そのため、上に該当する場合は、理由を述べて残業を断る相談をしてみましょう。例えば、「幼い子供がいるので」「連日長時間の残業でろくに睡眠が取れていないので」といった具合です。

正当な理由を述べても、残業を強要される場合、所属先はブラック企業かもしれません。早々の転職を検討するか、労働基準監督署や弁護士と相談しながら法的な手段をとるのも賢明です。

「サービス残業」や「過少申告」はしない

自分を守るためには、「サービス残業」や「過少申告」はしないことです。それらをすることで、違法な時間外労働に対して、自らも責任を負うことになりかねません。労働者が勝手に時間外労働をしていたとみなされ、会社側の十分な責任が問われない恐れもあります。

またサービス残業や過少申告を自らしてしまうことは、ブラックな働き方を受け入れることにもつながります。もちろん現場で突っぱねることが難しいケースもあるかもしれませんが、自分の考えとしては拒否することを心がけましょう。例えば、当面はサービス残業に甘んじつつも、すみやかに転職先を探すといった選択がおすすめです。

昨今は働き方改革の影響もあり、「サービス残業は当たり前」という考えは通用しなくなってきています。そのため、ホワイトな企業で働くためにも、サービス残業を拒否する意思を持つことが重要です。

客先との交渉は全て自社の営業担当に任せる

客先からの残業依頼を断る場合、現場とトラブルのような形になってしまうケースもあるかもしれません。そのような場合、自らは話し合いに応じず、自社の営業担当に交渉を任せるのが賢明です。

自分が「こうです、ああです」と何気なく言ったことが、口約束として法的な意味を持ってしまう可能性もあるので注意しましょう。SESエンジニアとしては、とにかく自社の指示を聞く、自社に任せるという対応が適切です。

自社が適切に対応してくれない場合は転職を検討

「残業が長すぎる」「残業代が出ない」といった状況に対して、自社が適切に対応してくれない場合は、ほかのSES企業に転職すべきです。SES­エンジニアの労務管理は自社が頼りなので、自社が信用できなければどうしようもありません。信頼できるホワイトなSES企業に移るのが良いでしょう。

なお、ホワイトなSES企業を見極める際は、以下のポイントを意識してみてください。

  • 残業した分だけ残業代が出る
  • 単価に対する還元率が高め
  • 同僚と一緒に客先に派遣される

とくに重要なのは、残業した分だけきっちり賃金が支払われることです。またそれぞれのライフスタイルに合わせて、残業時間の多さ・少なさにも注目してみましょう。

残業が多いからブラックとは必ずしもいえない

「残業が多い企業=ブラック企業」という図式は、必ずしも成り立ちません。問題はあくまで「残業代が出ないこと」と「残業を断れないこと」です。

希望に合わせて残業ができ、残業代もきちんと出るなら、人によっては、残業が多いことはむしろメリットともいえます。残業が多ければ、月々の稼ぎが多くなり、エンジニアとしての経験値も増えるからです。よって、たくさん働きたい人は、あえて残業が多めのSES企業を狙っても良いでしょう。

ただし、残業が多いSES企業には、一部にサービス残業が常態化している企業や残業を強要する企業も含まれています。相対的にブラック企業を引く確率が高いといえるので、企業の見極めをよりしっかり行う必要があります。

SES従事者の残業・休日出勤に対する口コミ調べてみた!

以下では、実際にSESエンジニアとして働いている人が、残業について投稿した口コミを紹介します。同業者の人たちがどのように残業をしているかを確認し、今後のキャリアを考えるうえでの参考にしましょう。

残業時間の相場は月20時間くらい

SESエンジニアの残業時間は、契約上も実際の労働上も、月20時間くらいが相場のようです。時間外労働の法的な上限が月45時間であることを踏まえても、SESの残業時間は決して多いとはいえないでしょう。

SESと比べられることの多いSIerの残業時間は、月30〜40時間と言われることもあるため、SESの残業時間はむしろ少ないです。月20日稼働するとして、1日1時間の残業という計算なので、少なくとも健康を害するレベルではないといえます。

稼働日が少ない月は残業時間が多い

SESは月140時間〜180時間くらいの稼働時間をベースとした契約になっているため、稼働日によって残業時間が変動する傾向が見られます。月の稼働日が少ないと、1日あたりの稼働時間が長くなるので、残業時間も多くなりがちです。反対に稼働日が多い月だと、相対的に残業時間は少なくなります。

2つ目の口コミのように、稼働日が少なすぎると、稼働時間を確保するために休みが取りにくくなることも想定されます。この点は稼働時間の縛りがある準委任契約ならではのデメリットだと言えるでしょう。

現場によってはかなり残業が少ない

現役のSESエンジニアからは「現場によっては残業が少ない」という声も複数聞かれました。SES企業では、半年から2年に1回のスパンで出向する客先が変わるため、残業の実態も大きく変化する可能性があります

新しい現場が、稼働日数と稼働時間のバランスが良かったり、時間できっちり帰してくれたりする場合は、残業が少なくて済みます。一方、稼働日が少なかったり、プロジェクトが慌ただしく進んでいたりする現場に入れば、残業が多くなるかもしれません。

まだSESに入って一つの現場しか経験していない人は、次の現場では今の状況が変わるかもしれないと理解しておきましょう

サービス残業が横行しているから転職したい

SES企業の中にもブラック企業はあるので、サービス残業が当たり前になっているようなところに入ってしまう人もいるでしょう。

ブラック企業に入社してしまった場合は、上記の口コミにもあるよう、一刻も早く転職して抜け出すのが賢明です。サービス残業は違法なので、基本的に受け入れるべきではありません。すぐに会社を辞めるのが難しい場合でも、近い将来、優良なSES企業に転職できるように準備を進めるのがおすすめです。

会社から残業せずに休めと言われる

サービス残業をしてでも「働け働け」というブラック企業がある一方、上記のように社員に「休め休め」というホワイト企業もあります。

基本的にはこのように労務管理がきちんとしている企業のほうが安心です。楽しく働くことができ、なおかつ十分な休日も与えられるため、ワークライフバランスを実現したい人に向いています。ちなみに納期に縛られるSIerで同様の働き方をするのは難しいので、適度に休みたい人にはホワイトなSESが適切です。

給料が十分に高くて残業も少ないので満足

一部で「やめとけ」とも言われるSESですが、優良な企業を選べば、上記のようにホワイトな働き方を実現することも十分可能です。この事例は、給料が十分で残業も少ない。仕事のやりがいもあって、育休も取得できる。まさに理想的なホワイト企業だといえます

なお、こうした優良企業に転職するには、第一にエンジニアとしてのスキルを磨き、自らの市場価値を高めることが重要です。あわせて転職エージェント等も活用しながら、企業の見極めをしっかりすることも欠かせません

SESの残業は少ないのが本当!優良企業に転職しよう!

SESエンジニアの残業時間は、契約形態および責任範囲からして、本来少ないのが自然です。残業が少なくてワークライフバランスを実現しやすいことが、SESエンジニアとして働くことの大きな旨味だといえます。

そのため、希望しない残業があまりにも多い場合は、より条件の良いホワイトなSESに転職するのがおすすめです。とくにサービス残業や過少申告など、違法性が疑われるブラックなSESにいる場合は、早々に転職を決断するのが良いでしょう。転職する際は、再度ブラック企業を引かないよう、キャリアアドバイザーのサポートも受けながら慎重に企業を見極めてください。

この記事の著者