IT業界ではSES企業からエンジニアがクライアント先へ常駐して、仕事をするのは当たり前になっています。SESについてネガティブなことが取り上げられがちですが、SESエンジニアはどのような働き方なのでしょうか。SESと受託開発と自社開発の違い、SESエンジニアとして働くメリットとデメリット、高還元SES企業はどのようなものかを解説していきます。IT業界を目指す方は、今後の働き方やキャリアパスの参考にしてみてください。
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SESとは何か?
SES(System Engineering Service)の略称です。IT業界のシステム開発の契約形態は、大きく分けて二つあります。クライアントから依頼されたシステムを開発し納品するもの、エンジニアの労働力をクライアントに提供するものになっています。SESは後者に当てはまります。クライアントへエンジニアを派遣し、専門的な技術を提供するサービスです。
・クライアントから依頼されたシステムを完成させて納品する
クライアントは納品された成果物に対価を支払います。成果物の納品義務があります。
・エンジニアの労働力をクライアントへ提供する
クライアントはエンジニアの労働力に対価を支払います。成果物の納品義務はありません。
SES、受託開発、自社開発の違いを解説
IT業界でよく使われる言葉ですが、SES、受託開発、自社開発は、それぞれ違いがあります。受託開発と自社開発の特徴と、SESと比較して違うポイントを解説していきます。
受託開発との違い
SESと受託開発の違いは3つあります。
受託開発では、要件定義、設計、開発、運用、保守を一貫して行いますが、SESはシステム開発の一部分にのみ関わることが多いです。
二つ目は、クライアントから依頼されたシステムの納品が必要で、クライアントは成果物に対価を支払う点です。
最後に、受託開発は瑕疵担保責任がありますが、SESは瑕疵担保責任はありません。瑕疵担保責任は簡単に言うと、納品した成果物に欠陥があった際に負う責任のことです。
瑕疵担保責任は正式名称が「契約不適合責任」に、2020年4月1日の改正民法の施行から変更されました。
自社開発との違い
SESと自社開発の違いは3つあります。
一つ目は、自社開発ではサービスの企画、開発、販売まで全てを行います。自社開発はシステム開発だけではなく、サービス全体に関わることができます。
二つ目は、報酬の違いです。SESは報酬が低く、自社開発は報酬が高い傾向にあります。正社員を雇用した場合とSES契約をした場合を比較すると、正社員を教育しエンジニアとして育てていくよりもSESの方が人件費が抑えられるという企業側のメリットがあります。
最後に、自社開発は業績に左右されるのがSESとの違いです。自社開発の場合、業績が良いと規模が拡大されていきますが、反対に業績が悪いと規模が縮小されて案件自体が終了となる可能性もあります。SESはクライアントへエンジニアの労働力を提供するため、人手不足のIT業界では継続的に仕事を続けられるのです。
SESエンジニアのメリット
SESと聞くと不安な印象を持つ方もいますが、SESエンジニアという働き方にはメリットもあります。SESエンジニアの5つのメリットについて、紹介をしていきます。自分に合った働き方かどうか、ぜひ参考にしてみてください。
未経験でも正社員エンジニアになりやすい
エンジニアの経験がなくても、SES企業に就職しやすいのがメリットの一つです。SESでは労働力を提供することが主たる目的で、成果物の納品は必ずしも義務ではありません。最低限のITに関する知識やパソコンを扱うスキルは必要ですが、案件に携わりながら専門的な技術を身につけていきます。
IT業界は慢性的にエンジニアが不足しているためSES案件の数が多く、複数の案件から自分に合うものを選べるというメリットもあります。未経験だけどIT業界で働きたいという気持ちがある方は、SES契約でエンジニアになるというのも一つの手段です。
労働時間が管理され残業が少ない
エンジニアは残業が多く忙しい仕事という印象がありますが、SESのエンジニアは残業が少ないというメリットがあります。SES契約はクライアントと労働時間について契約時に取り決めがあり、契約時間以上の労働は原則ありません。残業があった分コストが発生するので、クライアントは無駄な残業をさせないようにします。
納期に合わせて急に残業が起こることもなく、仕事と私生活のメリハリをつけやすいことがSESエンジニアのメリットといえます。
固定化されない職場環境で働ける
SESは案件によってクライアントの場所が変わるので、受託開発や自社開発のエンジニアと異なり、様々な環境で働けるというメリットがあります。関わる人や環境を変えながら、自分の興味がある技術や分野の案件に関わり経験を積むことができます。
人間関係を変えたい場合や、働きたい分野によっては転職が必要と考える方もいます。SESエンジニアは転職せずに、新しい案件に携わり知識や技術を磨き続けられるというメリットがあります。
大きな案件に携われることもある
入社するのが難しい大手企業の案件も、SESエンジニアなら携わるチャンスがあります。中小企業では直接受託できない案件に携われるので、受託開発や自社開発のエンジニアが経験できないことを、SESエンジニアなら経験ができるのです。SESは大手SIer企業の案件もあり大規模案件での経験を積む以外に、社外のエンジニアやクライアントとの人脈を得られるのもメリットといえます。
SES案件で多くの経験を積むことでスキルアップをして、エンジニアとしての価値を上げられます。人脈が役に立ち、より条件の良い企業への転職やキャリアアップにも繋がります。
幅広い知識とスキルを実践で得られる
クライアントから依頼される案件によって必要な知識や技術が異なるため、SESエンジニアは幅広い知識と専門的な技術を習得できます。前の案件で得た知識や技術が活かせるということもあるので、スキルアップをし続けたいという意欲のある方にSESエンジニアは向いています。
SES案件は開発だけではなく、要件定義や設計などのシステム開発の上流工程に携わることもあります。
SESエンジニアのデメリット
ここまでは、SESのエンジニアとして働くメリットを紹介してきました。SESエンジニアの働き方はメリットだけではなく、デメリットといわれていることもあります。良い面と悪い面の両方を知ることで、SESエンジニアへの適正、SESエンジニアの働き方を選ぶときの判断材料にできます。ここでは、SESエンジニアのデメリットを4つ紹介します。
下流工程メインでスキルが得られない
クライアント先でSESエンジニアが作業を行うとき、開発の実装部分を任されます。上流工程の要件定義や設計は既に完了しており、SESエンジニアが携われる部分が限られている点はデメリットともいえます。SESの案件をこなしても下流工程メインでは、同じような作業が多くなり、スキルアップが難しくなってしまいます。
SES案件によって作業範囲が異なるので、自分の希望に合っているかどうか契約前に確認することも必要です。
システムの全体を把握できない
SESのエンジニアが関わる部分はシステムの一部分の開発などであり、全体を把握することが難しいという現状があります。多重下請け構造のため、大手SIerから案件を受注した後、案件を細分化して中小企業に発注を行います。
案件に携わってもシステムのリリースなどの完成を見ることは多くなく、契約が終了してしまいます。自分の携わった部分がどんな働きをしているのか実感しにくく、他の人がどんな作業をしていたかも分かりにくいのです。
案件によって労働環境が変わる
SESエンジニアは労働環境が案件によって大きく変わることも、知っておく必要があります。案件の内容や必要な知識や技術は参加する前から共有されますが、実際に配属されるチームの雰囲気や人間関係は関わってみなければ分かりません。
SES案件によっては、配属されたチームが自分と合わないという可能性もあります。反対に、配属されたチームや環境が良かったとしても、契約期間が終われば案件に携わることはできません。契約が終了した後は新しい案件に参加するため、また一から人間関係を築いたり職場環境に慣れる必要があります。
帰属意識が薄くなってしまう
SESエンジニアは、自社への帰属意識が持ちにくいというデメリットもあります。クライアント先に常駐して仕事を行うため、自社へ出社することは用事があるときのみになります。自社の社員と会うことも少なく、交流を持ちにくいということが、帰属意識が薄くなってしまう原因の一つです。
自社の社員同士のコミュニケーションを取りやすくできるよう、社内SNSや社内イベントなどを行っているSES企業もあります。
最近良く見かける「高還元SES」って?
SESエンジニアの単価に対する還元率は、報酬に直接的な影響を与えます。SES企業によって計算方法やエンジニアの評価の仕組みが異なるため、これまで実際の還元率はわかりにくくなっていました。
近年では、SES企業が報酬体系や計算方法を公開することも増えています。高還元だとSES企業がいっていても、実際SESエンジニアにメリットがあるのでしょうか。
SES案件の還元率の求め方
一般的には「月単価×還元率-経費」で還元率が計算されています。月単価が100万円の案件、還元率が70%、保険や経費が30万円の場合は「100万円×0.7-30万円=40万円」となります。この場合は、40万円がエンジニアが実際受け取る給与になります。
高還元だから絶対良いという訳ではない
SESエンジニアにとって、高い還元率の案件は給与に大きな影響を与えるものです。ただし、還元率が給与に影響する完全成果主義が、どんな方にもおすすめできるかといえばそうではありません。
テスターやIT事務など、専門的な技術を必要としない案件に携わる場合、基本給を下回る月単価でSES企業は契約をすることもあります。そのマイナス分を、高単価の案件に携わっているエンジニアの月単価の報酬から経費として補填を行います。
未経験、実務経験が少なくスキルがまだ十分ではないときに高還元SES企業へ転職すると、成果が得られず思うようなキャリアパスを歩めない可能性もあります。
高還元で年収が大幅に上がる
低い還元率で働いていた場合、高還元SES企業で働くことで年収が大幅に上がります。SESエンジニアとして経験を積むことで、高単価の案件に参加しやすくなります。知識や技術が評価されて報酬も上がるため、モチベーションを高く持って業務に取り組みやすくなります。
給与が低くなってしまうことも
SES案件は時期によって変動することもあり、自分の希望通りの高単価案件へ携われないこともあります。還元率だけなく経費も高い場合は、エンジニアが実際に手にする給与が想像よりも低いというケースもあります。
高還元SES企業だからといって必ずしも、自分が手にする給与が高額とは限りません。実際にエンジニアが手にできる給与の額を調べてから、高還元SES企業への転職をすれば年収の減少という失敗も避けられます。
高還元SESに必要なスキル3つ
高還元SESでは、求められるスキルも高くなります。自走開発ができる、要件定義や設計など上流工程の経験がある、リーダーを担当した経験があるなど、エンジニアとしての経験が必要です。
自走開発ができる
まず、他人の手をあまり必要とせず自走開発ができることです。経験のある技術だけではなく、未経験の技術に対しても必要なスキルです。分からないことも自分で調べたり有識者に聞いたりしながら、積極的に業務に取り組んで進められる人だとクライアントも安心して仕事を任せることができます。
SESでは開発の案件が多く、要件定義や設計などの上流工程の案件は少ないです。クライアントとしては、自社の社員に上流工程の経験を積ませて育てた方が企業の将来のためになります。そのため、SESは開発やテストなどの下流工程の案件が多くなっています。
設計や要件定義の上流工程の経験がある
上流工程の経験を積むには、案件に長期間携わることです。システムをよく理解していると認められれば、設計や要件定義など徐々に上流の工程の経験を積むこともできます。設計や要件定義などの上流工程の経験があるエンジニアは、業務の幅が広いため単価を上げることにも繋がります。
要件定義や設計の経験がないまま、高還元SES企業に転職したとしても高単価の案件に携わるのは難しく、年収アップも実現しにくいです。そのため、転職前に設計や要件定義などの上流工程の経験も積んでおくことが必要です。
リーダー経験がある
少人数のチームでもリーダー経験がある方が、仕事の幅を広げられます。設計やリーダーなど人をまとめる立場の方が、コーディングを担当するエンジニアよりも単価が高くなる傾向になっています。チームリーダーではなくても、後輩社員の仕事の割り振りやコードレビューなど、マネジメント側の経験があることはアピールポイントになります。
SESエンジニアの働き方が自分に合っているかを知る
SESはIT業界では必要なビジネスモデルで、クライアントだけではなくSES企業にもメリットのあるものです。エンジニアとして知識や技術を身につけ、様々な案件で経験を積みたい方にとってはSESエンジニアの働き方はぴったりだといえます。
SESエンジニアの働き方は、メリットだけではなくデメリットもあります。自分の希望している働き方ができるのか、しっかりと調べて理解することが必要です。これからIT業界を目指す方は、SES企業がどのような企業と取引をしているのか、自社の社員を大切に扱っているのかを調べてから就職を決めることをおすすめします。